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霧の七郎(なごのしちろう)
原作あらすじ
江戸に出てきた上杉周太郎は、渋谷村の金王(こんのう)八幡宮境内で6人もの無頼どもを瞬時に倒した。これを見た霧の七郎は、そのみすぼらしい強い浪人上杉周太郎に近づき、百両で、長谷川平蔵の長男・辰蔵の暗殺を依頼する。
巣鴨村の三沢仙右衛門方に、女と遊ぶ金を借りに出た辰蔵を、三日も見張っていたかの浪人上杉周太郎は、辰蔵に声をかけるが、辰蔵が病み上がりであることを知って斬りきれず、逆に、辰蔵のおおらかな人柄が気に入って、手付にもらった25両と同じ25両で暗殺をあきらめることにした。又、辰蔵が念流を坪井主水に師事していることを知って、坪井道場を訪れる。
これを見ていた霧の七郎は、辰蔵暗殺を一時止まて本拠地である中国筋に帰って行った。
坪井主水は、上杉周太郎と供に、周太郎の父・上杉馬四郎の弟子であった。
「おそらく、この父だとて、真剣をとって斬り合ったら、上杉さんとは五分五分・・・・・いや、向こうが若いだけに、利があるやも知れぬ」
「まことで?」
「あれほどの剣士が、これまで世に出られなんだとは、な」
「ははあ・・・・・」
しばらくだまっていた平蔵が、やがて、こういった。
「上杉さんはな、あの顔かたちで損をしつづけて来たのだ。世の中の人間の多くは、うわべだけで人の値うちをはかってしまうゆえ、な」
登場人物・他
火盗改方、他
長谷川平蔵(火付盗賊改方長官)、 長谷川辰蔵(平蔵の長男)、 坪井主水(長谷川辰蔵の剣術の師匠)、 上杉周太郎(浪人・念流の達人)、 上杉馬四郎(周太郎の父・念流の達人)、 上杉謙蔵(周太郎の偽名)、 阿部弥太郎(長谷川辰蔵の悪友)、 阿部亀七郎(弥太郎の父・高田・四家町に住む旗本)、山内一之助(市ケ谷に住む辰蔵の悪友)、
盗賊・他
霧の七郎(平蔵殺害を計画する大盗賊)、 伊丹屋七兵衛(霧の七郎の偽名)、 由太郎(霧の七郎の幼名)、
お店、他
静遠時(せいおんじ・霧の七郎が、江戸見物と偽って宿泊した渋谷村の小さな寺)、八百茂 (やおしげ・霧の七郎、小川や梅吉兄弟の母方の叔父。二人を一人前の盗人にした。野槌の弥平の盗人宿)