目次
血頭の丹兵衛
原作あらすじ
天明八年春、[小川や梅吉]らの処刑がすんで間もなく、別の役目へ昇進させようという老中松平定信のはからいで、長谷川平蔵は、いったん盗賊改方を解任された。
後任者として盗賊改方となた大崎源四郎は、実直な人物ではあるが、ここ数ヶ月にわたる怪盗・血頭の丹兵衛の跳梁に手をやいていた。
約5ケ月後の天明八年十月二日、平蔵は再び盗賊改方にもどった。
それから三日後、麹町三丁目の紙問屋・万屋彦左衛門方が襲われたが、このとき背中に重症を負いながらも、万屋の次女[こう]が「島田宿に落ち合え」という盗賊たちの会話を聞いていた。
現場には血頭丹兵衛の焼印を押した木札が残されていた。
この丹兵衛を偽者と考えた小房の粂八は、盗賊改方の牢を解放され、島田宿に潜入した。
四日後の十月九日、粂八のあがった茶屋[くりぬき屋]に、粂八を尋ねて一人の男が現れた。なんと血頭の丹兵衛その人であった。かつての[仏の丹兵衛]の面影は消え、あぶらぎった欲望が面にぎらぎらと燃え立っている。(やっぱり、あの畜生働きは、本物の丹兵衛お頭だったのか・・・・)と蒼ざめるほどの落胆をした粂八であったが、丹兵衛の誘いにのって一味に加わることにした。
翌10月10日、丹兵衛一味の盗人宿である、大久保川の川っぺりにある[三倉や]という煙草屋を訪れた粂八は、したたかに酒を飲まされて三倉やを出た。それを合図に三倉やに打ち込んだ同心竹内孫四郎、小柳安五郎率いる川越人足五十余名と与力矢野甚造が指揮をとる酒井祐助はじめ盗賊改方9名は、丹兵衛以下五名を捕らえ、他は斬って捨てた。
帰途、さった峠で蓑火の喜之助と出会った粂八は、唐丸籠の中の丹兵衛を見たときの喜之助の哀しげな老顔が脳裏から消えなかった。
平蔵の名言
◆「泥棒の質も落ちたものだ」
と、目白台の自邸へ帰っていた長谷川平蔵は顔をしかめ、
「ちからまかせの押しこみ強盗なら、悪党であれば誰にでも出来る。女を犯し、人を殺すというのは、真の盗賊のなすうべき業ではないのだ」
吐き捨てるようにいった。
登場人物・他
火盗改方、他
長谷川平蔵(火付盗賊改方長官)、 天野甚造(与力)、 酒井祐右(同心)、 竹内孫四郎(同心)、 小柳安五郎(同心) 山田市太郎(同心)
盗賊・他
血頭の丹兵衛(凶盗) 蓑火の喜之助(本格派の老盗)、 三倉や(血頭の丹兵衛の盗人宿)、 石見屋(近江・土山宿の旅籠、丹兵衛の盗人宿)
密偵、他
小房の粂八(密偵)、 こう(万屋の次女)、 山鳥銀太夫(若き日の粂八が修行した見世物芸人市座の座頭)
お店、他
ふせや半蔵(武州熊谷宿の旅籠・丹兵衛に襲われる)、 和泉屋幸助(下谷・上野町の鼈甲小間物問屋・丹兵衛に襲われる) 万屋彦左衛門(麹町三丁目の紙問屋・丹兵衛に襲われる) 吉野家千助(粂八が丹兵衛配下の19歳の時、押し込みに入って飯炊き女に手を出して破門された) 宇治橋や(浅草・並木町の料理屋、粂八の道中手形の名目人) 鈴や紋十(粂八がわらじをぬいだ、島田の宿五丁目の旅籠) 丸屋徳四郎(芝口二丁目の書籍商・蓑火の喜之助が丹兵衛に化けて、四十余両を奪う) くりぬき屋(島田宿の娼家を兼ねた茶屋) 井筒や(島田宿・鈴やの前の旅籠) 柏や(さった峠ふもとの茶屋)
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